Celsiusの崩壊物語を解説
Pontem Network
2022年6月に流動性危機に見舞われ、数十億のユーザー資産を凍結し、暗号分野に大きな好ましくない波及効果を引き起こした「Celsius」のニュースは記憶に新しいと思います。トークン価格は暴落し、脆弱な暗号業界はさらに不安定になりました。Celsiusの物語が今後どのように終結し、最終的な被害額がいくらになるかはまだ不明ですが、この記事では、全てが崩壊した経緯について迫ってみたいと思います。
Celsius(セルシウス)とは?
Celsiusは、トークンの購入やスワップ、利回りの獲得などのサービスを提供する総合的なレンディングプラットフォームです。2017年のICOブームの中、Alex MashinskyとS. Daniel Leonにより設立され、ネイティブトークンとしてCELをリリースし、内部報酬システムを用いて機能しました。
Celsiusは急成長を遂げ、2020年までに顧客資産100億ドル、融資額数十億ドルを突破し、2022年5月までに170万人のユーザーと117億ドルの運用資産(AUM)を抱えるビッグプロジェクトに成長しました。
この記事で最も重要となるのは、Celsiusが預け入れられた暗号資産に対して最大18%という驚異的な高い年利率(APY)を提供していたことです。ユーザーは、報酬をさらに高めるためにCELをステークすることができ、このメカニズムもプロジェクトとトークンの成長に寄与するものとなりました。
暗号分野においても、ここまでの急成長は前代未聞であり、Celsiusが新たな金融分野として暗号資産の大量導入をもたらす存在になるのではないかと語られることもありました。
銀行からの解放
Celsiusのブランディングの多くは、銀行に対するネガティブなイメージの上に成り立っているものであり、CEOのAlex Mashinskyは「銀行は友人ではない」という言葉を好んで使い、その標語をあしらったシャツを着ていたほどです。そして、Celsiusのウェブサイトにはキャッチフレーズである「Unbank Yourself」の文字が大きく表示されていました。
銀行とは一体何でしょうか?
それは、お金を保管したり、借りたり、利息がついたりする場所です。つまり、Celsiusが提供するのは、既存の通貨の代わりに暗号資産を扱っているものの、まさに同様のサービスを提供する場所なのです。しかし、資産の取り扱い方を誤って失うことは、その資産がどのようなメカニズムで保存されるかにかかわらず、個人にとって同様に破壊的な影響を及ぼします。
Celsiusのウェブサイトに、次のような文字が書かれています。
「Celsiusは銀行、預金取扱機関、カストディアン、受託者ではなく、ユーザーの資産は、民間または政府の保険制度(FDICやSIPCを含む)による保険適用もされておらず、いかなる補償制度(FSCSを含む)にも対応していません。」
これは問題の核心を突いている部分と言えるでしょう。このFDIC、SIPC、FSCSとは、Federal Deposit Insurance Corporation、Securities Investor Protection Corporation(いずれも米国)、Financial Services Compensation Scheme(英国)の頭文字をとったものです。これらの制度は、市場崩壊(1933年のFDIC、1970年のSIPC)に対応して、銀行や証券会社が保有する顧客資産に対する保険として創設されたもので、銀行や証券会社が保有する顧客資産を保護する機能を持っています。例えば、銀行が破綻したり、流動性が低下した場合でも、顧客が全財産を失うことがないようにするものです。
Celsiusは、これらの顧客保護プログラムの対象外であることが明示していました。そのため、暗号資産価格が暴落した時に、1920年代や1960年代に伝統的市場で起こったのと同様に、一切の保護を受けられなかったのです。
Celsiusはウェブサイトに「Trust」のページを設け、「銀行が放棄した公正で透明なサービス、公正な利子、低い融資率、光速の取引を提供します」と宣伝していました。しかし、このページで引用されている証明書は、アンチ・マネー・ローンダリング・コンプライアンスに関するものだけでした。つまり、Celsiusのプラットフォームでの不正行為に対する責任を表すものであって、顧客を守る証明ではありません。
Celsiusの人気の源泉とは?
Celsiusが爆発的に成長した主な理由として、「2桁の高利回り」が挙げられます。CELトークンによる報酬として、Celsiusは18%という高い暗号APYを提供していました。
APY(年率利回り)の意味をおさらいしましょう。18%のAPYを持つCelsius Earnアカウントに1ドル入金した場合、1年後に18セントの利息を受け取ることができることを意味します。特に、このような破格の利回りを提供するCelsiusに対して、100億ドルがあっという間に集まったというのも不思議ではありません。(残念ながら暗号分野の参加者は、この分野で金融サービスに初めて触れたケースが多く、基礎的な金融知識を持っている方が少ないように感じます。)
では、どのようにしてCelsiusはこれほどの高金利をコミットしていたのでしょうか?
その答えは「顧客の資産を、よりリスクの高いDeFiプロトコルに投資することで生み出していた」ということです。
2020年当時には、Celsiusは顧客資産を貸し出し、その資産から利息を得ることで利回りを創出し、リスクマネジメントのヘッジとして、個々の融資に対して担保を要求していました。これは、銀行やウォール街の証券ブローカーにとってはかなり一般的な方法です。
しかし、時間が経つにつれて、Celsiusはより複雑なDeFiツールに資金を投入するようになっていきました。これによって、より高い利回りを提供することができたましたが、同時にリスクも高まっていきました。
Celsiusの高リスクの資産運用に問題を引き起こしたプロトコルとしてTerra、Lido、BadgerDAO、Stakehoundなどが挙げられます。これらを一つずつ見ていきましょう:
- Stakehound — 2021年6月にまで遡りますが、イーサリアムのステーキングサービスを提供していたStakehoundは38,000+ ETHのプライベートキーを紛失しました。ここでCelsiusは結果的に35,000ETH以上を失っており、この補填資金の捻出によって、市場圧力に耐える能力が損なわれたことが一因として考えられます。
- BadgerDAO — 2021年12月、DeFiプラットフォームBadgerDAOがハッキングされ、1億2千万ドルを失いました。Celsiusは、結果として2200万ドルを失っており、Stakehoundでの損失に加え、負債をさらに大きくする結果となりました。
- Lido — Celsiusは、2022年6月にペグを失い、1ETHあたり0.93stETH(各stETHはETHと等価交換できるはず)に下落したLidoのstaked ether(stETH)でも大規模な資産運用を行っていました。ここでCelsiusは100万ETH以上の負債を抱えており、引当金はその1/4に過ぎませんが、顧客が資産を要求した場合に、7%の損失確定を余儀なくされる状態となりました。
- Terra — 2022年5月、TerraのステーブルコインUSTはドルペッグを失い、ほぼ無価値にまで下落しました。CEOのAlex Mashinksyは「最小限の被害」であったと主張していますが、Celsiusは、ペッグの崩壊が始まると同時に、Terraの融資プロトコルAnchorから5億ドル以上を引き出しており、公表されている以上の被害があったのではないかという疑念を引き起こしました。
Celsiusに何が起こったのか?
一言で言えば、流動性危機がバンクランを引き起こしたということです。
ご存知の通り、ここ数ヶ月は暗号分野にとって厳しい期間となりました。全体の時価総額は、2021年11月の3兆ドルのピークから、7月初めには1兆ドルにまで落ち込んでおり、主要トークン価格は急落し、ビットコインとイーサリアムは史上最高値から70%以上下落しました。さらに、ここにTerraの出来事が加わって、状況がさらに悪化したことは言うまでもありません。
2022年6月12日、Celsiusは、市況の悪化を理由に「ユーザーの資産の引き出しの凍結」を発表し、事態は急展開していきました。つまり、ユーザーはもう自分の資産に一切アクセスすることができなくなったのです。
この事態に、ユーザーの怒り、不満、疑念が爆発したのは想像に難くありません。これに対してCEOのMashinksy氏は「誤った認識を持つ批判者によって“FUD”が広められている」と非難しました。
しかし、そのような話はCelsiusとユーザーを救うものとはなりませんでした。6月30日には、このようなアナウンスがされました。
「コミュニティとより多くの情報を共有できるよう、流動性の復活と事業の安定に迅速に取り組んでいます。ここでの選択肢には、戦略的取引の追求や負債の再構築が含まれます。」
要約すると 「お金を持っていない」ということです。
この物語がどのように終結するのかは、まだ不明です。7月11日には、Celsiusが破産申請を検討していることが報じられ、シティグループに相談し、資金調達の選択肢を探っているとされています。(結局、彼らにとって最後に頼れる友達は「銀行」だったということでしょうか?)
警告のサイン
今回の事態は、Celsiusユーザーにとって非常にショックな出来事ですが、このプロジェクト、やり方、チームには、いくつかの警告のサインがあったのも事実です。多くの人にとって、うまく行っているときには、これらの兆候はノイズとして処理されてしまいます。しかし、結果として、私たち全員にとって貴重な教訓となり得るものとなりました。
Celsiusは過去に、無免許・無規制の銀行運営に関して、規制違反の警告を何度も受けていました。アラバマ、ニュージャージー、テキサス、ケンタッキーの各州は、CelsiusのEarn商品(有名な高利回りを実現した口座)に対して停止命令を出しています。この警告は、ユーザーに対して、自分の資産がどのように使われ、保護されているかどうかを明確にしていなかったことに焦点を当てたものです。
現在Celsiusは、Jason Stoneという投資マネージャーから、CELトークンの価格を意図的につり上げ、実質的に「ねずみ講」を運営していたとして訴えられています。Stone氏は、Celsiusのファンドを運用契約を結んでいたKeyFiという会社を経営していましたが、2021年3月に同社を退社しています。この訴訟では、「Celsiusは、展開された投資戦略に内在する価格変動リスクから保護するためのリスク管理戦略を一切実施しなかった。Celsiusは、基本的な会計処理すら十分に行っておらず、顧客の資産を危険にさらした。」と主張しています。
Stone氏はまた、Mashinsky氏が自身の利益のためにCelsiusのプロジェクトウォレットを使用し、CELトークンの一部を妻に送金したり、個人的なNFTの購入に充てるなど、利己的な行為の数々について言及してます。
現在、米国の金融規制の最高責任者である証券取引委員会のGary Gensler委員長は、同様のプログラムについて警告しています。「一般的な金融常識では考えられないような、17%などのリターンを謳うマーケティングやウェブサイトには、真実ではないことが含まれてる可能性があります。」
現状、私たちにできることは、個々の資産の回収に向けた取り組みを続けることと、この被害が他の暗号プロジェクトに波及せず、Celsiusに限定されることを願うだけです。この一連の出来事は、常日頃からのリサーチによって資金を慎重に扱うことの重要性を思い起こさせてくれるものです。また、Celsiusの不透明で中央集権的な製品とは対照的に、Aptosのような超安全なブロックチェーン上でオンチェーン、ノンカストディアルのDeFiツールを使用することの重要性を示すものでもあります。
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