さて、ここからは、Web3による伝え方を簡素化し、製品を正確に説明することで、より広範な採用を実現するための3つの方法を紹介します。
1. UXを向上させるためにわかりやすい言葉を使用する
UXの改善は、最終的に次の10億人のユーザーにブロックチェーン技術を浸透させる(潜在的にでも)ものであり、業界として最も努力しなければならないところです。全ての人のための人間性中心のWeb3の実現をビジョンとする研究期間であるCrypto Research and Design Lab(CRADL)は、「UX in Cryptocurrency」という包括的なレポートを発表しました。
CRADLは、世界経済フォーラムのCrypto Impact and Sustainability Accelerator(CISA)と連携し、「暗号分野を技術中心から人間中心なものへとシフトさせる」ことを目的としています。私の会社では、Web3クライアントのブランドやポジショニングのコンサルティングをする際に、このことを念頭に考えています。クライアントによっては、技術面を掘り下げて説明することが重要な場合もあります。しかし、B2Cのブランディングに関しては、基礎となる技術を説明するよりも、「この製品で何ができるのか?」を明確に説明することの方が遥かに重要だと考えています。
これは人間関係でも同じでしょう。あなたがどこの大学を出たのかではなく「あなたは何ができる人間なのか?」の方が遥かに大切なのです。
現座上、Web3における最大のサクセスストーリーはNFTですが、そのきっかけを作ったのは、NBA Top Shotを生んだDapper Labsであると言えます。そして、NBA Top Shotのウェブサイトを見ても、ブロックチェーン、暗号通貨、NFTといったWeb3用語は一切出てきません。これは完全に意図的なものです。Dapperは、NFT、暗号技術、ブロックチェーンなどの素晴らしさについて語るのではなく、ユーザーが「自分の好きな選手のデジタルコレクションを完全に所有できる」という事実を伝えることに関心を寄せています。その結果として、NBA Top Shotのユーザー数は150万人、マーケットプレイスの取引件数は2000万件以上、取引額は10億ドルという驚異的な数字に達しています。親しみやすく、わかりやすい言葉で伝えることが、最終的にいかに多くの参加と活動をもたらすのかを如実に示しています。
2. 既知と未知のペインポイントを探る
私がクライアントに提供するもう一つのテクニックは、ブロックチェーン製品によって生まれる新たな機会について説明するために、ペインポイントを設定することです。
例えば、あるクライアントに、NFTを使用して美術品や住宅などの分散型所有権を作成するケースです:
「一般的に、オークションで美術品を買うのは、大金持ちでないと困難です。でも今は、誰でもコレクターやアートのオーナーになれるんです。それはブロックチェーン上のNFTが提供する、分散型の所有権によって実現できます。NFTとは…」
これは、現実の身近なシナリオを導入部分に使うことで、新たな学びを受け入れるマインドセットにする、最もシンプルな伝え方として知られています。
データの所有権というトピックは多くの人々にとっての関心事でもあり、Web3製品はそれをユーザーの手に取り戻すことができます。BritePoolとUSC Annenberg Center for Public Relationsが実施した調査によると、回答者の約90%が、ウェブサイト上で「個人情報の販売禁止」オプションがあった場合に、それを選択すると回答しています。
しかし、Web3以外の一般的なユーザーにとって、これはあまりにも大きな概念であり、現在のWeb3関係者による話し方は、彼らの知的好奇心による学びの範疇を超えています。この場合、「なぜ無闇にデータを共有すべきではないのか」について高い視座から説明するのではなく、一口サイズの概念に分割して説明することが大切です。
まず、「Web3ウォレットを使ってウェブページに接続することで、どのデータを共有するかしないかを本人が判断して決めることができる」ことを説明します。
次に、このようなデータへのアプローチから生まれる新しい可能性について説明します。「大手のインターネット企業がユーザーのデータを収益化していた代わりに、これからは個人が自分のデータに対する収益を得られるようになるのです。」と説明します。または、ウォレットがユーザーのアイデンティティを示すものとして、採用活動などに役立つことを説明するのもいいでしょう。今後、Web3ウォレットがよりシームレスな体験へとなるにつれて、こうした身近なユースケースが、大衆の自分事の関心事として、その利用を促進することになっていくでしょう。
3. Web3がもたらす現実的な機会をストーリーとして語る
Web3分野の開発者は、分散化、プライバシー、データ所有権といった概念を乱発する傾向にあります。しかし、これは多くの潜在的なユーザーにとって的外れなものとなっています。ユーザーが知りたいのは、その製品が自分たちにとって何を意味するのかであって、その製品を作るために行われているあなたの努力や技術の詳細ではありません。
私はクライアントにこのように伝えています。
「ユーザーは、ソーセージの複雑な製法ではなく、ただそれが美味しいかどうかを知りたがっているのです。」
ですから、私はクライアントに対して、製品の利用がユーザーにとってどのような意味を持つのかについてを明示し、基礎となる技術に関する説明を前面に出さないよう求めています。それは知りたい人だけが知るべきものであって、押し付けるべきものではないからです。
ゲーム企業は、ゲームユーザーに「NFTを導入しました。」という伝え方ではなく、「ゲーム中の資産を完全に所有できるようになった」というソフト面からの説明をするべきなのです。しかし、それだけで終わらせるべきではありません。それが何を意味するのかについて、ユーザーに親しみのある例を挙げて説明してください。「ゲーム内で購入したアイテムをあなたのコレクションとして所有したり、対応する他のゲームでそのアイテムを使ったり、他のプレイヤーに販売することができるようになりました。」というようにです。このような表現は、専門用語によるアレルギーをもたらすことなく、NFTの活用が、より良いユーザー体験をもたらす「美味しいもの」であることを明確に表現しています。
プラットフォームが、ユーザーの利用や貢献に対して暗号通貨の提供を開始する場合には、ユーザーに「この報酬は自分の銀行口座のお金と同じように、あなたの資産として所有できるものである」と説明してください。そして、「自分の好きなように報酬を使うことができ、現金に交換することもできる。今までのゲーム内の資産と違って、ユーザーがその取り扱いを完全にコントロールできる。」ということを伝えてください。
そこにブリッジやトランザクション、チェーンの特性に関する説明など微塵も要りません。このような伝え方が大切であり、複雑な技術を一切見せないUXを備えたアプリケーションを作る技術こそが、10億人の大量採用に向けて必要なことなのです。