Web3ウォレットの革新技術
Pontem Network
3月3日、PontemはMoveConでMartian Wallet、Ethos、Bloctoなど業界リーダーと、Web3ウォレットの最新イノベーションについて議論しました。
登壇者の紹介
- Abhinav Bhardwaj:Aptosで誕生し、Suiに拡大したMoveベースのチェーン用の暗号ウォレットMartian Walletの最高執行責任者です。Martianは最近、Twitterとのソーシャル統合機能を開始し、ユーザーはTwitterのユーザー名をアカウントアドレスに接続し、NFTの鋳造を含む様々なサポートされた取引を実行できます。
- Nadia Eldeib:ノンカストディアル型ウォレットであるEthosのCEO兼共同設立者で、EthosはユーザーがSui上の分散型アプリケーションを発見し、統合的に体験するためのゲートウェイとして機能します。現在、消費者向けアプリを作成するSui上のビルダーのためのインフラを開発しており、アプリ指向の体験としてのウォレットに焦点を当て、オープンソース化され開発者にインスピレーションを与えるアプリケーションを構築しています。
- Hsuan Lee:BloctoのCEO兼共同設立者。マルチチェーンウォレットBloctoは、JavaScript、iOS、Android、Unity SDKの提供に加えて、新規ユーザーのオンボーディング体験の向上に重点を置いています。現在、BloctoはEVMチェーン、Flow、Aptosをサポートしており、近々Suiのサポートを追加する予定です。
ボトルネックの解消:UXの向上とメインストリームでの普及
Web3ウォレットにはさまざまな機能や特徴がありますが、秘密鍵の管理や暗号資産の取引に関わる複雑なプロセスは、この分野の初心者にとって困難だと感じてしまう要因となっています。
ほとんどのウォレットは技術的な利用者を念頭に置いて作られているため、大量導入には向いていないのが実情です。開発者はこの問題を認識しており、よりユーザーフレンドリーなウォレットを作るために努力しています。しかし、ウォレットのインターフェースの制限がインタラクションのボトルネックとなって、より堅牢でダイナミックなアプリケーションの開発を妨げています。
この課題に対して、開発者は分散型アプリケーション(dApps)へのゲートウェイとなるウォレットを作ることに重点を移しています。その目的は、ユーザーが複雑な技術的インターフェイスを操作することなく、さまざまなdAppsとシームレスにやりとりできる、より全体的で合理的な体験を提供することにあります。
これによって、Web3の可能性を最大限に引き出し、より多くの人々がアクセスできる分散型ウェブを実現することが可能になります。
Crypto-CuriousからCrypto-Confidentへ
暗号エコシステムへの新規ユーザーのオンボーディングにおいて、秘密鍵、ガス料金、スマートコントラクトとの対話などの複雑な要素が、未経験者にとって困難な作業となっていることに触れました。
しかし、適切なアプローチにより、幅広いユーザーにとって親しみやすく、利用しやすいオンボーディング・エクスペリエンスを構築することが可能です。オンボーディングを成功させるために考慮すべき重要な点は以下の通りです:
- 親しみやすさ-フリーミアムモデルの要素を取り入れ、購入前にアプリケーションを試すことができるようにすることで、触れやすさを演出することができます。また、Web2の特定のコンポーネントを追加することも重要で、オンボーディングプロセスをより簡単に、よりアクセスしやすくすることに繋がります。
- わかりやすさ- ユーザーが操作するリソースやオブジェクト、およびそのトランザクションの結果について、明確な説明を提供することは不可欠です。ユーザーは、全てのステップで自分が何をしているのか理解できるようにする必要があります。
セルフカストディウォレットに革命を起こす
デジタル資産を管理するために、セルフカストディ(自己保管型)・ウォレットが人気を集めていますが、これらのウォレットの使い勝手は、秘密鍵へのアクセスを失う恐怖と相まって、最適とは言えないものでした。
インフラは徐々に改善されつつあり、プロトコル設計の新たな開発によって多くの新機能が実現しつつあります。前述のように、ユーザーエクスペリエンスを向上させる重要な側面として、ユーザーがウォレットを簡単かつ確実に操作できるような直感的なデザインを実装することが挙げられます。
しかし、優れたデザインを実装しても、秘密鍵の紛失や資金の回復が不可能であるという懸念から、ユーザーはノンカストディアル型のウォレットに資産を保管することに抵抗があるかもしれません。
しかし、最近話題になっているのAccount Abstractionの進展によって、ソーシャルログインやリカバリーなど、Web3への親近感を高める様々な便利な機能を開発することが可能となり、大きなブレークスルーとなっています。
さらに、ガスの抽象化によって、ユーザーがガス料金を支払うために、特定のチェーンのネイティブトークンを所有または取得する必要がなくなります。その代わりに、開発者は、ユーザーが別のトークンを使って取引手数料を支払うことを可能にすることで、ガス料金を抽象化することができます。
Account Abstractionを利用することで、バッチ取引の実行、新規参入ユーザーの取引のスポンサー、秘密鍵へのアクセスを失う心配がなくチェーン上の取引を容易に実行できる燃焼可能な秘密鍵の作成など、いくつかの利点が生まれます。
また、ユーザーエクスペリエンスの向上という技術的な側面だけでなく、社会的な側面も考慮する必要があります。
これについてはソーシャルプラットフォームを導入し、ユーザーがコミュニティと関わり、ツイートやソーシャルインタラクションに基づく取引など、身近な取引を実行できるようにすることで、ユーザー体験全体に組み込むことができるソーシャル要素を付与することが可能です。
サイバー攻撃や詐欺を防ぐ強固なセキュリティ対策
悪意ある行為者は、無防備なユーザーをターゲットにしようと考えています。ユーザー資産の安全性とセキュリティを確保するために、Web3ウォレットは以下のような強固なセキュリティ対策を実施する必要があります:
- 詐欺サイトやフィッシングサイトのブロックリスト
詐欺サイトやフィッシングサイトとして報告されているウェブサイトのブロックリストを作成することで、ユーザーが詐欺の被害に遭うことを防ぐことができます。この方法には、ガバナンスの問題や、正規のサイトを誤ってブロックしてしまうなどの欠点もあります。 - ウォレット内のネイティブな組み込みアプリケーション
ウォレットにネイティブアプリケーションを組み込むことで、ドメイン名やDNSへの依存を減らし、取引の安全性に対するユーザーの信頼性を高めることができます。このアプローチには、新たな攻撃ベクトルを生み出す可能性があるなどの課題もあります。 - AIの統合
AIをウォレットに組み込むことで、潜在的な危険性をユーザーに促したり、暗号領域をナビゲートするためのサポートを提供したりすることができます。例えば、AIを使用して、悪意のあるパターンがないかウェブサイトをスクリーニングしたり、トランザクションの送信やトークンのステーキングでユーザーをサポートすることができます。
秘密鍵管理のための安全なソリューションの探求
秘密鍵は、保有する暗号資産にアクセスし管理するために不可欠であり、そのセキュリティは最も重要なものです。秘密鍵が漏洩すると、関連する全ての暗号資産が失われる可能性があります。秘密鍵の管理は困難であり、安全で使い勝手の良い保管方法を見つけることは、多くの個人にとって困難なものとなっています。
ハードウェアウォレットとマルチシグウォレットは、秘密鍵を安全に保管する方法です。ハードウェアウォレットは、秘密鍵をオフラインで保管し、生体認証などの追加セキュリティ機能を提供します。マルチシグウォレットは、取引に複数の署名を必要とし、さらなるセキュリティ層を提供します。
これらの方法は、全てのユーザーにとって実現可能な方法とは限りません。この課題に対処するため、開発者はソーシャルログインや多要素認証など、秘密鍵の管理プロセスを簡略化するソリューションを模索しています。これらのソリューションにより、ユーザーは使い慣れたログイン方法でウォレットにアクセスできるようになり、さらにセキュリティのレイヤーを追加できるようになる可能性があります。
これらの機能は有望ですが、警戒を怠らず、各アプローチのトレードオフを考慮することが極めて重要です。最終的には「not your keys, not your crypto」という基本原則が常に守られなければならなりません。
ブロックチェーンデータの活用によるUXの向上
可能性と欠点
ブロックチェーン技術は、データの公開と透明化を実現する新しいパラダイムをもたらしました。このイノベーションの利点を十分に活用するために、開発者はユーザーのプライバシーを尊重することと、公開されたデータを活用することの間の微妙な境界線を慎重にナビゲートする必要があります。そうすることで、よりパーソナライズされた、ユーザーに合った体験を生み出すことができるのです。
しかし、考慮すべき欠点も存在します。例えば、大企業がブロックチェーンのデータを使って広告やマーケティングのターゲットを絞る可能性は懸念される部分です。
さらに、全てがオンチェーンで記録されるため、匿名性を維持することが難しく、ユーザーにとって深刻な問題となる可能性があります。購入した商品を世間に公開したい人はいませんし、その情報を非公開にする機能がなければ、暗号決済の普及は妨げられるかもしれません。
さらに、デジタルウォレットはユーザーIDの保管場所として機能するため、ユーザーはこうした取引に内在するプライバシーのトレードオフを認識し続ける必要があります。この課題に対処するためには、ゼロ知識証明を利用した新しいプライバシーツールの開発や、ユーザー教育やデータの使用方法に関するコントロールに重点を置くことが必要かもしれません。
資産管理革命:Moveがウォレットを改善する方法
イーサリアムが全てのデータをオンチェーンに保存する方法とは対照的に、Moveのリソースモデルは、コイン、NFT、トークンといった最も価値のある情報のみを保存することに焦点を当てた、よりターゲットを絞ったアプローチをとっています。このユニークなアプローチは、これらの資産を有形財産として扱い、資産管理や譲渡を容易にします。
このため、ハッキングやスマートコントラクトへの不正な組み込みの影響を受けにくく、ユーザーにとってより安全性の高い資産となります。さらに、取引は影響を受けるリソースや資産に関する情報をより多く提供するため、ユーザーはコミットする前に何が起きるのかをよりよく理解することができます。
イーサリアムは、膨大なユーザーベースと広範な採用によって、ブロックチェーン分野を支配しています。そのため、多くのMoveベースのウォレットがイーサリアムのサポートを追加することを検討しているのは驚くべきことではありません。
しかし、複数のチェーンをサポートするには、一貫性のあるユーザー体験を提供するためのアプローチが必要であり、複数のチェーンをサポートするために必要な技術的負債とリソース配分が課題となります。
とはいえ、イーサリアムをサポートすることのメリットは大きいものです。ひとつは、ブリッジングやクロスチェーンでのやり取りが簡単にできること、つまりユーザーが複数のウォレットを切り替える必要がないことが挙げられます。
AptosとSuiにおけるクロスチェーンの展望
EVMベースのチェーンとMoveを統合する可能性に加えて、Moveベースのチェーンは、チェーン間の相互作用を促進し、全体的なユーザー体験を向上させることができます。
著名なMoveチェーン全体を構築するリーディングプレーヤーであるMartianは、ユーザーに大きな価値を提供するクロスチェーン機能の実装に取り組んでいます。例えば、APTをアカウントに持つユーザーは、SuiマーケットプレイスでNFTを購入することができ、その取引はバックグラウンドで簡単に完了します。
また、APTのドメイン名と一致するドメイン名がSuiで利用可能になったときに、ユーザーに通知する機能も開発中です。
Suiの興味深い機能を探る
Suiは、以下のような革新的な機能と実用的なユースケースを提供し、ユーザーエクスペリエンスを向上させることを約束しています:
- 事前承認取引のバッチ処理
Suiの主要機能の1つは、事前承認された取引を一括して処理する機能です。この機能によって、ユーザーは複数の取引をグループ化して一度に送信することができ、ガス料金の削減とユーザーエクスペリエンスの向上を実現します。この機能の実装は簡単にできるため、アプリケーションの効率化を目指す開発者にとっては魅力的なオプションとなります。 - オンチェーンゲーム体験
Suiは、完全なオンチェーンゲーム体験の構築にも適しています。低レイテンシーと流動的なゲームプレイに重点を置くことで、ゲーム開発者は、ブロックチェーンのみを動力源とする没入感のある体験を作り出すことができます。 - ダイナミックNFT
Suiは、実行可能なNFT(xNFT)とダイナミックNFTの実装を容易にします。静的な資産を表す従来のNFTとは異なり、動的なNFTは、ユーザーの行動やスマートコントラクトの条件に基づいて時間と共に変化することができます。これによって、ゲームやコレクターズアイテムなど、よりダイナミックなNFTへのアプローチを必要とするアプリケーションに新たな可能性をもたらします。
プラットフォームリスクを回避する:App Storeの挑戦
Appleは最近、暗号関連のアプリケーションをApp Storeで公開する際に課題となる厳しいポリシーを導入しました。この問題は、Appleのアプリ審査が非常に厳しいという評判があり、審査が終わるまでに数週間から数ヶ月かかることもあるため、深刻なものとなっています。
このような課題を克服するためには、どうすればよいのでしょうか。一つの解決策は、暗号の大量導入に焦点を当てることで、大手テック企業に暗号技術をより真剣に受け止めるよう影響力を持つことです。
また、iOSとAndroidのネイティブSDKを提供することで、開発者がアプリに直接ウォレット機能を組み込めるようにすることも、回避策として考えられます。この方法は、より合理的でユーザーフレンドリーであるため、新規ユーザーの取り込みが容易になり、Appleの厳しい審査プロセスを潜り抜ける可能性があります。
もちろん、これらのソリューションは、暗号通貨にとってよりオープンなモバイル環境を構築するための、長く複雑な旅の始まりに過ぎません。
しかし、ヨーロッパでは最近、iOSデバイスのアプリケーションのサイドロードを許可する規制が設けられるなどの兆しも見えてきているようです。さらに、Solana phoneのようなイニシアティブは、従来のゲートキーパーを越えて、よりオープンでアクセスしやすい選択肢を生み出す新しい方法を模索しています。